「追いかけないの?」
「追いかけないよ」
「……」
「追いかけるなんて…出来ない」
「兄貴は…今のままでいいの?」
“それでいいの?”
俺がいつも依良に言う言葉。
兄貴と依良の間では俺は所詮部外者でしかないから。
俺にしなよなんて言葉…依良には言えないから。
「それでいいの?…か」
なあ兄貴、その冷たく悲しい笑みの理由は何なんだよ。
俺からゆっくりと視線を外した兄貴は苦しそうに言葉を絞り出した。
「わかってたんだよ。依良が言った事なんて…わかっててやってたんだから」
「……」
「他の女の人にはしない事を依良にしてる事も…。距離が近いなんて当たり前じゃん。わかっててやってたんだからさ」
兄貴の瞳はどこを見てるのかいまいちわからなくて、いや、違う。一点を見つめているのに瞳の奥はどこを見ているのかわからないんだ。



