「絢人か」


ポツリと呟かれた言葉は、落胆。



「依良に…何したわけ?」


兄貴も依良もいつもとは違う。少しだけ緊張しながらそう問いかけた。



「………依良に会ったの?」


「廊下で…。泣いてたよ」


そう言えば兄貴は辛そうに顔を歪めた。


「依良にさ、言ったんだ」


自嘲するようにそう言った兄貴に、何があったのか理解できた。




“依良に言った”


それはつまり、兄貴の結婚が所謂、政略結婚だという事を言ったという事だ。




そしてそれからの出来事も大体は推測出来る。



依良の、兄貴の様子を見たらわかる。


依良を誰よりも…兄貴よりも近くで見てる俺だから。

同じ女の子を好きな血を分けた兄弟である俺だから。




兄貴の答えも、依良の答えも、わかる。