あの日、ドンッと身体に痛みが走って誰かにぶつかったと思えばそれは依良だった。


依良は走っていてどうしたんだと思い依良の顔を見ればその顔は涙に濡れていて、一瞬パニックになったけどその涙の理由はすぐにわかった。


兄貴だ。


兄貴と何があったのかはわからない。

だけど涙の原因が兄貴だということはわかった。



依良は俺を見るとまたすぐに走り出してしまって名前を呼んでも振り返る事なく階段をかけ降りていった。



依良を追いかけたい。だけど俺の足は依良を泣かせた兄貴の部屋へと進んでいた。





「兄貴!」


バンッと音を鳴らして乱暴に開けた部屋のドア。

ドアを開けた先にはソファーに座りながら眉間に皺を寄せて何かを考えている兄貴がいた。



兄貴があんなに怖い顔をするのは珍しい。



俺の存在に気づいた兄貴は弟の俺でさえドキッとするくらい哀愁のある目で俺を捉えた。