「そんな無理して笑う必要ない」
「………っ」
絢人の言葉に私はさらに涙を流した。
それを面倒くさがる事もなく、優しく一粒一粒拭ってくれる絢人の手はとても温かかった。
そのおかげか、徐々に私の涙は止まっていった。
「……絢人、は…知ってたよね?」
「兄貴の婚約が家の為だって事?」
「うん…、」
「知ってたよ」
「そっか」
家族である絢人が知らないはずがない。
「ねえ、絢人」
「ん?」
「家の為の結婚なんて変だと思ったんだ。だけど…それは滝川の家では仕方ない事なんだよね?」
「…………」
「政略結婚でも、幸せになれるよね…?」
「依良…」
「遥くんは好きな人はいないって言ってた。だから政略結婚も受け入れるって」
もしも、もしも遥くんが私を好きだったとして。
そしたら私は何としてでも政略結婚なんて壊すのに。
そこに色々な大人の事情があっても、何を犠牲にしても、根性なしの私でも遥くんの為なら何だってやるのに。耐えられるのに。
遥くんが政略結婚なんて嫌だって言ったら、一人でも遥くんの味方になって一緒に色々なものと戦うのに。
でも、そんな事する必要もないんだ。
遥くんは私の事を好きでもないし、政略結婚を受け入れるって言ってるんだから。



