この“さようなら”は、二度と会わないって意味じゃない。
今までの私達に、“さようなら”って意味。
甘えてばかりいた私に“さようなら”って意味。
妹の様だった私に“さようなら”って意味。
初恋に“さようなら”って意味。
前に進む為の“さようなら”なのに、
二人の在るべき姿を示す“さようなら”なのに……。
どうしてこんなに悲しい“さようなら”なんだろう。
「帰るね」
「うん。気をつけて」
立ち上がった私に遥くんがいつもの様に「送るよ」って言ってくれる事はなかった。
「遥くん、……バイバイ」
そう言う私はどこまでも弱虫で狡いヤツだ。
パタンと後ろで閉まったドア。
その音を合図にしたかの様にブワッと涙が溢れ出した。
「…………っう」
止めようとしても止まらない涙。
こんなドアの前で泣いたら遥くんにこの泣き声が聞こえてしまう。
「………っ!」
早くここから退かなければ。
そう思った私はボロボロと泣きながら玄関までの廊下を走った。
今は人様の家だとしても走る事を許してほしい。
「……うっ、……く、……」
何をそんなに泣いてるんだろう。
悲しいんだ、全てが。
苦しいんだ、全てが。
辛いんだ、全てが。
遥くんの婚約も、政略結婚も、さようならを選んだ事も。
全てが辛くて苦しい。
このまま幼馴染みなんて嫌だと少しでも思ってしまった。
恋愛対象として見てほしい。そう思ってしまった。
でも、こんな事になるなら……幼馴染みのままでいい。
今までのままで良かったよ。
それすらもう、いけない事なんだろう。
ドンッ───。
泣きながら下を向いて走っていたせいか、階段を下りる前の曲がり角で誰かとぶつかってしまった。
お手伝いさんにぶつかってしまったのかと思い謝ろうと咄嗟に顔を上げるとそこにいたのはお手伝いさんではなくて……、
「あや、とっ……!」
ビックリしながら私を見る絢人だった。



