インナモラート 【完】




「俺は依良が思ってる程優しい人間じゃないよ」



「遥くん……?」



「この婚約はあくまでビジネスの為。皐月さんもそれを知ってるし、俺からもそう伝えた」



遥くんの瞳は冷たい。




「皐月さんは婚約者だけどそれはあくまで親が決めた、婚約者。だから俺にとっては皐月さんなんて正直どうでもいい」



「……っどうしてそんな事っ、」



こんな事を言う遥くんは知らない。






「俺にとっては皐月さんよりも、依良の方が大切」




どうして今、そんな事を言うの?


恋愛感情なんてないくせに。

婚約者がいるくせに。

それでいいと言ったくせに。


こんな時でさえドキドキと鳴る胸が今は恨めしい。






「それくらいの自由、あっていいでしょ?」




優しさの欠片もない瞳は遥くんの瞳じゃない。




パンッ───。



乾いた音が響いた。