「父さんは俺に好きな人がいるなら断ってもいいと言った」
「好きな人…?」
グチャ、グチャ。と遥くんは私の心を掻き乱す。
「でも、好きな人がいないならこの話を受けてほしいとも言った。狡いよね、会社の話をした後にそんな事言うなんて」
「本当、狡いよ」と苦しそうな声が私の鼓膜を揺らした。
そして、
「狡いと思うけどまあ、好きな人なんていないから受けた」
その言葉に泣きたくなって、吐きそうな程心がグチャグチャになって、もう私の心なんて無くなればいいのにと思った。
遥くんが私を好きじゃない事なんてわかってるのに。
わかってるのに、どうしてこんなにも辛いんだろう。
「滝川家の長男なんだから、それも仕方のない事だしね」
全てを諦めた様に言葉を放つ遥くんが酷く美しく見えて、けれど酷く穢く見えた。



