「誰にでもこんな事したらダメだよ」
「依良にしかしない。それだったらいいの?」
ダメに決まってるじゃん、どうして分かってくれないの?
遥くんは大馬鹿者だ。
頭の良い遥くんならわかるでしょ。
優しい遥くんなら私の言葉に頷いてくれるでしょ。
「皐月さんがいるでしょ?」
震える声を抑えながら何とか声を出す。
「皐月さんだけを想って、大切にするのが当たり前だよ」
涙が落ちてしまいそうなのを何とか我慢する。
「遥くんは皐月さんの婚約者なんだから」
遥くんの好きな人は皐月さんでしょ?
「皐月さんを愛してるでしょ?」
遥くんの顔を見てそう言うと遥くんは凄く辛そうに、悲しそうに顔を歪めた。
その表情は今にも泣いてしまいそうで、遥くんが壊れてしまいそうで────すごく、すごく、すごく。
───────怖かった。
ドキン、、ドキン
ドキン、ドキン
心臓の動きが段々速さを増していく。
ドク、ドク、ドク、ドク
ドクドクドクドク。
何が怖かったのだろうか。
遥くんが泣いてしまいそうだから?
遥くんが消えてしまいそうな程儚く見えたから?
それとも、言い知れぬ不安が急に襲ってきたから?
心臓がその不安を煽るかの様に激しく音を立てる。
静かな部屋の中、聞こえるのは私の心臓の音と、
「皐月さんの事は───愛してない」
冷たい冷たい、遥くんの声。



