「何、いきなり。俺が婚約しても変わらないって言ったじゃん」
「そうだけど…でも…」
遥くんに婚約者がいると知った時、私は怖かった。
遥くんとの関係が変わってしまいそうで。遥くんが遠くに行ってしまいそうで。
だから変わらないって遥くんが言ってくれた時すごく嬉しかったんだ。
でも、変わるとか変わらないとか以前に私達の関係性は変だったんだ。
少しだけなのか大分なのかは分からないけど、普通じゃないんだ。
遥くんに甘えてばかりいた私も、私を子どもだと思ってる遥くんもそれに気づかなかったんだ。
遥くんと私は───変わらなくちゃいけない。
だって、
絢人は私を抱き締めたりしない。
あの時みたいに押し倒したり、一瞬でもキスなんてしない。
もっと早く気づいていれば良かった。
そうすれば少なくとも私は今よりは楽だったかもしれない。
皐月さんに不快な思いをさせなかったかもしれない。
遥くんを怒らせなかったかもしれない。
「依良は俺がこういう事するのは嫌なの?」
“依良は”なんて言う遥くんは狡い。
そんな事聞く遥くんは狡い。



