インナモラート 【完】


「何でここで絢人が出てくるの?」


「絢人だって俺と同じくらい距離は近いと思うけど」



そうかもしれない。そもそもこの兄弟は元から距離が近いんだ。

フレンドリーといえば良いのか、何なのか。

女性限定でいえばフェミニスト。




「そうだけど…絢人は遥くんとは違うよ」


そう。絢人は遥くんとは違う。

私が好きなのは遥くんだし、何より、


「遥くんは婚約者がいるでしょ?」


皐月さんという、愛する人がいるでしょ?






「婚約者がいるのに他の女の人にこんな事しちゃダメだよ、相手が幼馴染みでもダメなんだよ」


「どうしていきなりそんな事言うわけ?」


私の腰に回った手が強くなった。


「避けてた事と関係あるの?」


遥くんが怒ったと思った。

決して声を荒げる事はない、でもその手で、声色で、怒ったとわかった。





「避けてた訳じゃないし、関係ないよ。私はただっ…」


「ただ、何?」



泣きたくなってくる。

私だってこんな事言いたい訳じゃない。

遥くんを怒らせたい訳じゃない。

遠ざけたい訳じゃない。

嫌じゃないのに、やめてなんて言いたくない。


でもそれじゃダメだから…。


傷つく人がいるから。





「これは普通じゃないよって言いたいだけで…」




遥くんだっていつか後悔する日が来るかもしれない。




「少なくとも皐月さんはイイ気しないと思うから……だからやめようって言ってるんだよ…?」