「依良?」
遥くんの驚いた様な悲しそうな表情は私の心をズキンと痛ませる。
だって、こういう行動が皐月さんにとったら不愉快なはずで。
ここで遥くんに甘える様な事を私はしたらいけない。
遥くんの優しさは私が幼馴染みだから。
本当の妹の様に思ってるから。
皆に優しい人だから。
前からそんな事わかっていたけど。
でも“幼馴染み”だから。
その重みが前よりも増している。
幼馴染みだから誰よりも優しくしてもらっている事が嬉しくもあったのに…今はそれが嫌で、苦しくて仕方ない。
「一人で帰れるから…」
「でも夜だし危な」
「すぐそこなんだからっ、」
心配してくれてる事もわたしが子どもだからと思ってしまう。
“拒絶しなさい”
“離れなさい”
甘えてばかりいられない私はどうしたら良いのかわからない。
遥くんを傷つけたくはない。
「子どもじゃないんだから…一人で帰れるよ」
そう言って私は部屋を飛び出した。
「依良っ…」
「遥架さんっ!」
後ろで二人の声を聞きながら、人の家だと言うのに、広くて長い廊下を走った。