「私は遥架さんの婚約者。あの人は私のものよ。その私が不愉快だと思う行動は慎むべきだわ」
そう言うと皐月さんは優雅にワインを喉に流し込んだ。
その姿はとても妖艶で、こんな時でも見とれてしまう程。
「あなたの存在は不愉快」
ワイングラスを元の位置に戻した皐月さんは氷の様に冷たい瞳で私を射ぬく。
「ごめんなさい」
正論の皐月さんに謝る事しか出来ない。
自分の婚約者に必要以上に他の女の人になんか近づかれたくないのは当然だ。
そんな事にも気づけなかった私はなんて愚かなんだろう。
遥くんの事は大好きだけど、皐月さんが遥くんに近寄らないでと言えば私はそれを受け入れるしかない。
「別に絶対に遥架さんに近寄らないでと言ってる訳じゃないのよ?」
「え…?」
「これまで通り幼馴染みとして仲良くすればいい。ただし、今までの様に必要以上に近づかないで」
「…………、」
「遥架さんが近づいてきたら自分から離れなさい」
皐月さんは何て優しい人なんだろう。
皐月さんにとったら私は邪魔な存在なのに、絶対に近づくなとは言わないでいてくれてるなんて。
不快な思いをさせてしまったのに……。
だけど、私は遥くんから離れる事が出来るだろうか。
きっと、出来ない──。
「出来ない、なんて思わないでね?離れる事が出来ないなら拒絶しなさい。拒絶が出来ないなら二度と近づかなければいい」
まるで私の迷いがわかっているかの様に厳しい口調でそう言った皐月さんに私は小さく頷いた。



