夜の6時。リビングに行ってコーヒーでも飲もうかな、なんて思い部屋を出ると





「あ、」




兄貴の部屋のドアを少しだけ開けてその場に立ち尽くす、兄貴の婚約者───、



栗原皐月の姿が見えた。





顔を嫉妬に歪ませて、部屋を覗く栗原皐月。





「ねえ、」


「……っ!」


そう声をかけると栗原皐月はハッとした様にこっちを向き、急いで部屋のドアを閉めるとズカズカとこっちに向かって歩いて来た。






栗原皐月の顔は怒りと嫉妬にまみれていて、何を見たかなんてすぐにわかった。



「兄貴と依良、イチャついてました?」


軽く笑いながら言うと分かりやすく不機嫌になった栗原皐月。





「あの二人は…いつもあんなに近い距離なの?」


「まあ幼馴染みですし」






本当は幼馴染みでも、腰に手を回して座ったりするなんてないだろう。


だけど兄貴はそれが依良との普通だと思っている。
他の女性にはそこまではしないけど、距離が近いから幼馴染みの依良にはもっと近くなってしまうんだと思う。

まあ、依良だからあんなに近くに置いておきたいんだろう。


依良は恥ずかしがってるけど兄貴は皆にそうしてると思ってるから変だとは思ってない。





元々父さんのおかげで女性には優しく、としつけられてきた俺達。


女性には優しくしてきたし、距離が近いのは生まれもってのクセみたいなものだ。


だけど兄貴も俺も他の女と依良の区別はつけてる。




兄貴だって紳士だし女性との距離は近いけど、引き寄せて隣に座らせるなんて依良にだけだ。


俺も依良にチャラいなんて言われるけど可愛いなんて言葉、依良にしか言わない。








「幼馴染みとしても、近すぎるわ」




栗原皐月の言う通り。



だけど、これが俺達の普通。


依良を自分のものにしたくても出来ない、俺達兄弟の、普通──。




「幼馴染みなんて、そんなものですよ」