「ば、か…?」
「そう、馬鹿」
至って真面目な顔で言った絢人に怒りたい気持ちもあるけど怒れないのは絢人がずっとそばに居てくれたから。
「意味、わかんないよ」
「うん、わかんなくていいよ」
「なにそれ…」
「わかってほしい気持ちもあるけどね」
悪戯に笑った絢人は頬に触れていた手を後頭部へと回して、コツンと自分の額と私の額を合わせた。
「…………っ」
普段から距離が近い絢人とは言え、こんなにも近く、しかも顔と顔が近くなる事はないから一気にバクバクと心臓が暴れだした。
「依良」
「っな、なに…?」
微かに息がかかって、それが余計に恥ずかしさを煽る。
「一人で泣かないでね」
「……………、」
「本当は依良にはいつも笑っててほしいんだけど、泣いた顔も可愛いからさ」
「なに言って…」
「だから泣くのを我慢しろとは言わないから、泣きたくなったら俺のそばで泣いてね」
冗談混じりに、だけど真剣に言う絢人に心がギュウッとなった。
「依良には俺がいるんだから」
私の目を見つめながら甘く、それでいて強い瞳でそう言った絢人。
そんな絢人の瞳に捕らえられた私は何も言う事が出来ず、瞬きすらも出来なかった。



