「よーり、」
「…………」
「よりさーん」
「…………」
「依良ちゃん?」
「………っ」
ビクッと肩が揺れたのが自分でもわかった。
絢人に依良ちゃんなんて言われなれてないから…。
初めて会った時から呼び捨てだったから。
しかも“さん”とかよりも何だか恥ずかしいし。
「依良ちゃーん、」
「………、」
「依良ちゃん」
「…………っ」
それに気づいた絢人はわざとらしく“依良ちゃん”と呼んでくる。
その間にも頬はツンツンとされていて…、もうこれ以上意地張っても私が折れる事は明らかだ。
「こっち向いてよ依良ちゃん」
「…………っなに?」
「………あ、やっとこっち見た」
背けていた顔を絢人の方に向ければ絢人は嬉しそうに微笑む。
そしてツンツンしていた人差し指以外の指を開いてそのまま私の頬へと手を滑らせた。
「依良」
切なそうに、だけど甘く囁かれた私の名前。
その時の絢人の表情はすごく苦しそうだった。
だけどすごく幸せそうでもあった。
「冷えるといけないからそろそろ戻ろうか」
頬を一撫でした絢人はそう言って私の肩に手を添えてバルコニーを後にした。



