【福井 梨乃サイド】
「よいしょ…っと」
丈夫な幹に手をかけて、へこんでいる部分に足を引っかける。
木登りは、ずっと幼い頃から大の得意だった。
なにより、家を出ると周りは森。
大きな木はたくさんあるし、僕のまだ小さな体で登れる木は山ほどある。
木のてっぺんまで行くと、頭を振って、髪の毛についた葉っぱを落とした。
ピキッという音を立てて、小さな幹が折れる。
「由紀、そっちは危ないから」
双子の姉、由紀が森の奥に入ろうとしていた。
「大丈夫!ついてこないでね!」
「えぇ……、母さんが心配するよ?」
「うるさい!行くったら行くの!」
「あ、ちょっと…!」
由紀が走って森の奥へと進んでいってしまった。
あの先は崖がたくさんある。
運動が苦手な由紀は、気づかずに落ちてしまう可能性が高い。
慌てて木から降りると、地面の葉っぱが風で飛んでいった。
由紀が進んでいった方向に歩みを進めるも、由紀の姿はどこにもなかった。
『ついてこないでね!』
由紀の言葉を思い出すと、はぁ…とため息をついた。
そんなこと言われても、心配だからついていくよ。
キョロキョロと辺りを見渡して、由紀を探す。
危ないと思っていた崖が見えてきて、下を覗いても由紀はいない。
「由紀ー?どこ?……あ!あそこに綺麗な蝶々が!」
「えっ!?どこ!!」
計算通り。
ガサガサっと低木の中から現れた由紀は、僕がいう蝶々を探していた。
「嘘だよ」
「なっ……」
僕の嘘に引っかかった由紀は、しょんぼりと落ち込んだ。
由紀に近づくと、手を取る。
「はい、捕まえた」
「…どうしてついてきたの!!」
「ん?だって、心配だから。崖もあるし、落ちたらただじゃすまないよ?」
「むぅ…」
由紀がなにをしようとしていたのかは分からない。
だけど、このようなことが3日くらい続いた。