優しい貴久に思わず頬が緩んでいく。


あたしは意識的にキュッと口角を引き上げた。


「でも、貴久も忙しいでしょ?」


部活やバイトといった用事がなくたって、高校生は色々と忙しい。


特に貴久の家は父子家庭だから、家の仕事がたんまりとあることをあたしは知っていた。


「大丈夫大丈夫。家に帰っても宿題とか家の手伝いとかするだけだし。たまにはサボっても怒られないから」


どうしよう……。


貴久の申し出は嬉しかったけれど、エマが昨日のように汚い言葉を使ったらどうしよう?


そんな気持ちになって簡単には返事ができなかった。


悩んでいる間に昇降口が見えて来た。


放課後、すぐに帰る生徒たちで賑わっている。


「でも……」


迷っていると貴久があたしの手を繋いできた。


「じゃ、エマちゃんの幼稚園まで案内よろしく」


そう言ってほほ笑む貴久に、あたしはもうなにも言えなかったのだった。