「俺のお父さんだ」


その影を見て光弘は言った。


「廃墟の中でなにをしてるの?」


「わからない。でもさっきから瓦礫をどかせているみたいなんだ」


光弘の言う通り、光弘のお父さんは一心に瓦礫をどかせる作業を続けている。


どうするつもりなんだろう……。


暗がりの中、光弘のお父さんの荒い呼吸が聞こえて来る。


どれだけ疲れても休憩を挟む気はなさそうだ。


あたしと光弘はその光景をジッと見つめる。


やがて瓦礫は少なくなり、床が見えた。


光弘のお父さんはその床を引きはがし始めたのだ。


バキバキバキッ! と、木が折れていく音が夜の空気に響く。


床も随分劣化していたのだろう、それは瓦礫をどかせる作業よりもずっと簡単そうに見えた。


「行ってみよう」


光弘に言われ、あたしはそっと廃墟へと足を踏み入れた。


光弘の父親に気が付かれないよう、足音を殺して前進する。