「ありがとう」


早口でそう言い、すぐに受話器を受け取った。


「もしもし光弘!?」


『もしもし』


「あたしも光弘に伝えたいことがあったの」


『その話、後でもいいか?』


昼間よりもずっと焦った様子の声にあたしは唾を飲み込んだ。


自分の心臓が早鐘を打ち始めているのを感じる。


「どうしたの?」


『今、お父さんが1人で家を出て行ったんだ。青い顔して、なにか思い詰めてる感じだった』


「どこへ行ったの?」


『わからない。でも、嫌な予感がするんだ。今日書斎で会った時からずっと落ち着かない様子だったし、俺のスマホを持って出たみたいなんだ』


「スマホって古い方?」


『うん。これから追いかけてみようと思う』


「追いつけるの?」


『わからないけど、タクシーを呼んだところなんだ』


「そっか……それならあたしも今から出る。行先がわかったら連絡が欲しいんだけど……」