たった3回のコール音がやけに長く感じられて、背中に汗が流れて行った。


「はい」


お母さん声が聞こえてきたとき「エマは!?」と、叫ぶように聞いていた。


「ナナカ? エマなら何時間も前に帰ってきているわよ?」


その言葉の証拠に、お母さんの声の後方からエマの無邪気な声が聞こえて来た。


途端に全身から力が抜けていくのを感じて、あたしはその場に膝をついていた。


「そう……」


「どうしたのナナカ? なにかあったの?」


「ううん、なんでもない」


あたしはそう言い、電話を切った。


貴久が連れ去られた事は言えなかった。


すぐに警察に相談しようかとも思ったが、それで事態が好転するとは思えない。


貴久の両親には申し訳ないけれど、あたしは誰にも知らせることなく、1人で歩き出したのだった。