『助けて』


その声は朝まであたしの脳内で繰り替えされていた。


しゃがれた、魔女のような不気味な声。


電話はそれだけで終わったけれど、貴久もあたしも眠れないまま朝が来ていた。


2人でキッチンへ向かうと貴久のお母さんが豪華な朝食を用意してくれていた。


呑気にご飯を食べる気にはならなかったが断るわけにもいかず、あたしは貴久の隣に座った。


「ナナカちゃんがいたら家の中が華やかでいいわね」


「本当だな。またいつでも遊びにおいで」


人のいい両親はニコニコと終始笑顔であたしと接してくれた。


その優しさが、今は心の痛かった。


『助けて』


あの言葉の意味はなんなのか。


ユミコさんは誰かに助けを求め続けていたのか。


気になって仕方ないのに、今のあたしはこうして美味しい朝ご飯を食べている。


「急にお邪魔してすみませんでした」


家を出る準備をして玄関先に立ち、あたしは両親へ向けて頭を下げた。