「出るの?」


「もちろんだ」


貴久は頷き、あたしが止める暇もなく電話に出てしまった。


「もしもし?」


貴久の声にあたしはゴクリと唾を飲み込んだ。


近づいて耳をそばだててみると、穂香の時に聞いた水の音が微かに聞こえて来た。


「これ、川の音だな」


貴久の言葉にあたしは頷く。


今日あの河原へ行ったばかりだから、すぐにわかった。


最初はなんだかわからない水音だったが、あの場所に関連している音だったのだ。


やがて水の音に混ざり、赤ん坊の泣き声が聞こえ始めた。


オンギャアオンギャアオンギャア!


誰かに助けを求めているような、悲痛な泣き声。


その泣き声を聞いているだけで胸が張り裂けそうな切なさを感じた。