@YUMI KO

貴久はブツブツ言いながらも、スマホを持って帰るために鞄に入れ始めた。


あたしは咄嗟にそれを阻止していた。


「ダメ!」


と、声を張り上げて貴久の手からスマホを奪い取る。


貴久は驚いた顔をあたしへ向けている。


「大丈夫だよナナカ。なにもないから」


「でも、ダメ」


目の前でいなくなった穂香のことを思い出すと、これを貴久に渡すわけにはいかなかった。


あたしが四六時中肌身離さず持っていれば、きっと大丈夫だ。


「意味ないよ」


不意に大人びた声が聞こえてきてあたしはエマを見た。


いつの間にかお絵かきをやめて、ジッとこちらを見ている。


その無表情な顔に、あたしはたじろいてしまった。


「選ばれたら、もう逃げられないから」


いつものたどたどしい口調ではなく、しっかりとそう言うエマ。


「エマ。変なこと言うのはやめて」


「わかってるくせに」


あたしへ向けて言うエマがニッと口角を上げて笑った。


そして、あの笑い声を漏らす。


「あははははははははは!」


エマの異様な笑い声が聞こえて来る中、あたしはそっとお絵かき帳に視線を移動させた。


ついさっきまでエマが熱心に描いていた絵。


それは真っ白な服を着た女性と、男が並んで立っている絵だった。