社長に貰った夜食のお寿司を美味しく頂く。

有名店らしく、味は最高だった。

やっぱ、人間は美味しいもの食べないとね。


小さい頃から自宅で味気ない食事をしてたから、人より食には貪欲だと思う。


家政婦がいた頃は一人っきりの食事。

母親が作るようになってからは、険悪な2人に挟まれてのぎこちない食事。

食べ物の味なんて、感じる事も出来なかった気がする。


「ん、美味しい」

ネタが新鮮だわ。


ブッブッ・・・ポケットから伝わる振動に、それを抜き出した。

スマホのバイブが手に伝わる。


「・・・晴成か」

着信相手を確認して、出ることに戸惑った。


このまま、彼らと関係を続けてもよくない気がするから。

でも、晴成達といて楽しかったと思ってしまってる私がいる。


これ以上、深入りすれば彼らの世界を見てしまう。

私の小さな世界が脅かされそうで怖い。


1度鳴り止んだスマホが再び着信を告げる。


はぁ・・・と吐息を吐き出して、画面をタップした。


「・・・はい」

『響?』

「ん」

『なにしてんだ?』

「バイト」

『バイトしてんのか?』

「そ」

『何処で?』

「言わない」

『どうしてだよ!』

「教えたら来るでしょ」

『い、行かねぇし』

絶対に来るよね。


「晴成はなにしてんの?」

『溜まり場にいる』

「そう」

『聞いといて、興味ねぇのかよ』

「ん」

『はぁ・・・おまえねぇ』

電話の向こうで落胆してる晴成の姿が思い浮かんだ。


「用ないなら切るね」

『あ、おい、待て待て』

焦った晴成の声に、クスッと笑う。


「忙しいんだよね」

お寿司食べるのに。


『・・・悪りぃ』

「別にいいけど」

『バイト何時までだよ?』

「言わない」

『教えろよ』

「教えたら、迎えに来るじゃん」

『バイト先知らねぇし』

「家に来るでしょ」

『・・・・・・行かねぇ』

その間はなんだよ。

来る気満々だったよね。


「じゃあ、切るね」

お寿司食べないとだし。

『・・・チッ、分かった』

「バイバイ」

『またな』

その言葉を聞いて通話を終えた。


またな・・・またがあるんだと思ったら、ほんの少しだけ浮かれた気持ちになったのは、内緒だ。


私の中で、色々な物が矛盾していた。