「いらっしゃいませ」

張りのない声で、自動ドアから入ってきた客を出迎える。

こちらを見る様子もなく客は目的の陳列棚へと向かう。

今日もお客の少ないレンタルビデオ店は快適だ。


バイトなのに、そんな事を言ってちゃ本当はダメなんだろうけど。

帰りに受けた煩わしい出来事で、すっかり私の気力は磨り減ってるんだ。

ここは一つのんびりさせてもらいたい。


「響ちゃん、お疲れ」

いつもの緩い感じで社長がやって来る。

「お疲れさまです」

気だるげに返事を返す。


「おお、今日はいつもに増して黒いね」

「黒いってなんですか」

笑顔でそんなことを言われても意味が分かんない。


「ほら、醸し出してるオーラって言うのかな」

いかにも楽しそうに笑う社長。

そんなもの出してないし。


「そうですか」

面倒臭いので適当に返した。


「響ちゃん、響ちゃん。今日の夜食は・・・じゃじゃ~ん、いろは寿司の折り詰め」

めげない社長は見せびらかすように寿司折りを私の前に突きだした。


夜食って・・・。

レンタルビデオ店で夜食なんて、普通でない。


「はぁ・・・」

「反応薄い。ここの美味しいんだよ、はいどうぞ」

残念そうに眉を下げながらも、私に寿司折りを手渡してくる。


「ありがとうございます」

せっかくなのでもらうけど。

食べ物は大切だ。


「うんうん、奥の休憩室で食べておいで」

「は~い」

素直に返事して奥へと向かう。

バイトに入って一時間で夜食が出てくるなんて、恵まれたバイトだと思う。

社長はやたらと私を可愛がってくれるだよね。

まぁ、それには理由があるんだけど。


実は社長はお祖父ちゃんの旧友。

初めは知らずに面接に来たんだけど話してみると、なんとお祖父ちゃんを知ってて。

コネ採用となったわけだが。

ありがたい話だ。


緩い感じのバイト先、そして直属の上司も緩い。

なんて恵まれてるんだろうと、自分でも思う。


お祖父ちゃんも、社長の所なら安心だと太鼓判を押してくれてる。

ずるだと言われても、ここのバイトは止めたくない。


マンションにも近いし、高優遇だし。

ラッキーって感じ。