「ちょっといいかな?」

そんな声を後ろから掛けられたのは、1人で廊下を歩いてたその日の放課後。

千里が委員会活動で居ない時を狙ってきたんだろう。


振り返った私の視界の先にいたのは2人組の女の子。


前に声をかけられた時とは違って、派手な感じの子じゃなくて髪の長い大人しそうな女の子とショートカットの勝ち気そうな女の子。


「・・・何?」

鞄を肩に担いだまま2人を見据える。


「及川君とどういう関係」

ショートカットの子が苛立ったように聞いてくる。

「ただのクラスメート」

「だったら、及川君にちょっかい出さないでくれない?」

正義感たっぷりって顔で言ってくるけど、私から及川君には話し掛けてないのよね。


「・・・めんどくさ」

また巻き込まれてる事に溜め息が出た。


「はぁ? 何よ、面倒臭いって」

目をつり上げて唾を飛ばしてくるのは止めて欲しいな。

「千絵ちゃん、落ち着いて」

大人しい子がショートカットの服の裾を引っ張ってる。


「だって、芽依、こいつが」

こいつとか言われる覚えないけどね。

自分が絶対正しいって顔で私を睨み付けてくるショートカットが、かなりウザい。


「及川君に用があるなら、彼に直接言ってくれない?」

私には関係ないことだし。


「はぁ? あんたが及川君をたぶらかしてるんでしょ」

「・・・・・」

言うに事欠いて、たぶらかすってなんだろうか。


「ほら、図星だからなんにも言えないんでしょ」

呆れてものが言えなかった私を見て、何か勘違いしたショートカットが勝ち誇ったように言う。


「勘違いも甚だしい。声をかけてきてるのは及川君なんだけど」

抑揚のない声でそう返す。


最近、こんなの多くない?

言いがかりばっかりつけられてる気がする。


「っ・・・あんたが構うからでしょ」

構ってねぇわ・・・あ、口が悪くなったじゃない。


「じゃあ、うちのクラスの連中にでも聞いてくれる? 私が自分から構ってるかどうか」

「う、煩い」

「はぁ?」

逆ギレなの。


「千絵ちゃん、もういいよ。篠宮さんに迷惑だよ」

おぉ、大人しい子の方が分かってるじゃん。


「でも、芽依。あんた、辛い思いしてるじゃないよ」

「そうだけど・・・でも」

「でもじゃない。ここではっきり言っとかないと、こいつが付け上がる」

ショートカットがやたらとムカつく。

何様のつもりなのかな。