「そんな嫌そうな顔しないでよ。俺も傷付く」

眉を下げた及川君は、相変わらず爽やかイケメンだ。


「そう」

嫌なら声をかけてくるのを止めたらいいのに。

感情の籠ってない目で見上げ、興味を無くした様に目を逸らした。


「及川君って、本当めげないのね」

呆れた顔で及川君を見た千里は苦笑いする。

「それが俺の良いところ。どんなに苦しくてもゴールを狙っていく」

でた・・・スポーツ少年。


「アハハ」

千里の乾いた笑い声。


「委員長~!」

誰かが千里を呼ぶ。

「はい」

「ちょっといいかな?」

手招きするクラスメートに頷いて立ち上がった千里は、

「ごめん、ちょっと行ってくるね」

と私に告げた。


「ん」

軽く手で合図した私に手を振って千里が居なくなる。


及川君は、当然の様に千里が今まで座っていた場所に腰掛けた。

「2人で話が出来るね」

そんな嬉しそうな顔をしても、私としては迷惑なだけなんだけど。


だいたい、教室には他の生徒もいるんだから、2人きりって訳でもないでしょ。


「私より話したい子が沢山居るわよ」

こっちを見てる女の子達の方へと視線を向ける。


「俺は篠宮と話したい」

真っ直ぐな目を向けられた。

「変な人ね」

「好きな子と話したいと思うのは普通だと思うけど」

迷いもなくそんな風に言えるなんて、変なの。


「私なんかの何処がいいんだか」

溜め息交じりにそう吐き出す。


「最初は見た目。すっげぇ可愛いと思った」

「そ」

「で、話すようになって、やっぱりいいなって思った」

「適当にあしらわれてるだけなのに?」

「あっさりとした話し方だけど、篠宮はちゃんと目を見て話してくれるだろ」

爽やかに微笑んだ及川君。


そんな理由だなんて呆れた。

目を見て話すなんて、誰だってするでしょ。


「悪いけど、私は君を好きになることはないよ」

だって、彼とは住む世界が違う。

光のある場所で生きてる人の側はしんどい。

自分の惨めさが目立つもの。


「別に焦らないよ。ゆっくり攻めるつもりでいるし」

本当、ポジティブだよね。

「そう」

多分、いくら話しても平行線だな。

会話を終わらせて、窓の外へと視線を向けた。


だけど、及川君はチャイムが鳴るまでその場を離れることはなかった。


本当、変な奴。