あの日、晴成達に連れられて行った夜のドライブは、悔しいけど楽しかった。

関わりなくないと頑なに思っていたくせに、彼らと居ることに、居心地の良さを感じてしまったんだ。


自分勝手で我が儘な私を疎まう事も無く、ウルフの幹部達は笑顔で接してくれた。

まるで、私がここに居ていいと言ってくれてるみたいに錯覚を起こしかけた。


本当は、私の居場所なんかじゃないのにね。



ドライブの後、晴成は私をバイクで送り届けてくれた。

タンデムの私を思ってか、晴成は静かにバイクを走らせてくれた。


別れ際に、『またな』と言ってくれた晴成に『気が向いたらね』としか返せなかった私は天の邪鬼。

彼らとこれ以上、近付いてしまうことが怖かった。





「聞いた? ウルフの総長がバイクの後ろに女の子乗せてたんだって」

「聞いた聞いた」

「どんな子かな?」

「「羨ましい」」

窓の外へと視線を向けていた私の耳に、クラスメートの会話が聞こえてくる。


情報回るの早すぎでしょ?

どうなってんのよ。


「彼女かな?」

「いや~! 今まで特定の子は居なかったのに」

彼女じゃないわよ。

バイクの後ろに乗ったぐらいで、大袈裟だよ。


「学校はウルフの総長の噂で持ちきりだね」

私の前の席の子に椅子を借りて座ってた千里が、大声で話す女の子達へと目を向けた。

「そんなに噂になってるの?」

ゆっくりと千里に視線を向けた。


「学校に来てから何度か同じ話してる子を見たよ」

「へぇ、そうなんだ」

「響は相変わらず興味なしだね」

と笑う千里から視線を窓へと戻す。


正体がバレてたら困るけど、晴成の後ろに乗ってたのが私だってバレてなきゃそれでいい。

こんなに噂になるなら、迂闊なことはしなきゃ良かったと思うけど。


でも、楽しかったんだよね。

夜のドライブ。


風を切って走るバイクの上から、流れる景色を見たら、モヤモヤしたものが全て吹き飛んでいく感じがした。


バイクに乗ってる時だけは、余計な事も考えなくて済んだしね。


「総長の彼女の噂のおかげで、篠宮と俺の噂は立ち消えてくれたみたいだね」

「ゲッ」

いつの間に来たのよ、及川君。

隣に立ってニコニコ笑ってる及川君に、溜め息を漏らす。