一騒動を終えて、なんとか出発準備が整った。

倉庫のシャッターがゆっくりと上がっていく。


「響、振り落とされねぇように、腰にしっかり掴まってろよ」

振り返って響を見る。

俺の肩に両手を乗せてるだけじゃあぶねぇだろ。


「えっ? こう」

遠慮がちに回ってきた響の手。

「これぐらいな」

その手を掴んで自分と腰にしっかりと巻き付けた。

背中に密着した響の体は柔らかくて、ふんわりいい香りがした。


ヤバい・・・マジでヤバいだろ。

落ち着け俺。

響から伝わる熱に奥から何かが沸き上がって来そうになる。


盛りのついた中坊かよ。

はぁ・・・深い息を吐き出して自分を落ち着ける。


「ゆっくり走るけど、怖かったら言ってくれ」

「分かった」

響が頷いたのを感じて、俺はヘルメットのバイザーを下ろした。


瑠偉と光希が先行して出発していく。

俺はそれに続くように、ゆっくりとアクセルを空ける。

後方からは豪と秋道のエンジン音が聞こえる。


溜まり場を出て、車通りの少ない道路を進み始める。


さぁ、夜のドライブを楽しもうか。

背中に感じる響の存在に、気持ちを高揚させながら俺はハンドルを握っていた。

この時間が永遠に続いたらいいのに、だなんてらくしねぇ事も浮かんでくる。


女を後ろに乗せたことがねぇわけじゃねぇ。

でも、乗せてるだけでこんなにも楽しいと思ったことなんてない。


響を後ろに乗せてたら、どこまでだって走っていけそうな気がした。

後ろのこいつに、そんな事を言えば、冗談じゃないわ、なんて返ってきそうだけどな。


自然と口角が上がる。


前を進む瑠偉と光希が調子に乗って蛇行運転を始めたのを見て、響をあいつらの後ろに乗せなくて良かったとつくづく思った。


暫く郊外を走って、海岸線に出る。

遠くに見える街の光が綺麗に見えていた。



響と同じ光景を見ているんだと思うと、ガキみてぇに嬉しくなる。

背後にいる響の表情は確認出来ねぇが、同じ様に楽しんでくれてたら良いのにと思わずにはいられなかった。


俺達の見る世界を響も感じてほしい。

そして、響の世界を俺にも教えてくれねぇかな。


同じものを共有し合える、そんな関係になりたいと思うのは、きっと後にも先にも響だけだ。




ーendー