「ところで響は、なんであんなとこにいたんだよ?」
後頭部に問い掛けられた質問に振り返る。
「べつに? なんとなく」
ぶらぶらと歩いてたらたどり着いただけだし。
「おまえなぁ、なんとなくって」
晴成は呆れた顔で私を見る。
「だって、ブラブラしてただけだもん」
「暇人かよ」
「かもね」
暇潰しだったのは間違いないかも。
「はぁ・・・危機感無さすぎだろ」
「別に危ないことなんて無かったよ」
誰にも声をかけられなかったし、私の存在なんて誰一人気にも止めてなかった。
「お前なぁ・・・女の一人歩きなんて襲ってくれって言ってるようなものじゃねぇかよ」
少し怒りを含んだ口調で言われた。
「こんなフード被った怪しい奴なんて襲わないでしょ」
そんな物好きなかなか居ないって。
「・・・そ、そんなの分かんねぇだろ」
「いや、分かるでしょ。だいたい襲われたら返り討ちにしてやればいい」
「はぁ・・・お前ねぇ」
参ったって顔で見るの止めてよね。
晴成は、何かを考えるように黙り込む。
「響さん、夜の街に溢れてる連中の中には普通じゃないのも居ますので、気を付けてくださいね」
秋道は苦笑いで振り返る。
「あ・・・それは分かってる」
「今は人の命を簡単に奪うような輩も居ますし」
「確かにそうだけど。そうなった時はなった時で、私の人生がそこで終わる運命って事だね」
そうなった時、私の薄っぺらい人生なんて、その程度だったときっと思うんだろうな。
何とも言えない表情で私を見つめる秋道に、ふっと笑ってみせる。
「生きることにそんなに執着ないんですよね」と。
「響」
「響さん」
2人してそんな心配そうな顔しないで欲しいんだけど。
「そんな顔しなくても、人生に絶望してるとかじゃないから」
ただ、自分の存在理由を知らないだけだもの。
「だったら・・・俺が執着させてやる。だから、お前は自分を大切にすることを覚えやがれ」
怒った顔の晴成のアンバーな瞳が悲しそうに揺れてる。
「俺達と探せば良いですよ。貴女を生きる意味を」
秋道までそんな事を言う。
いやいや、だから、そんな大袈裟なことじゃないんだって。
ただ・・・本当にただ、自分の価値を知る機会を与えられなかっただけなんだのも。