「ここで停めろ」

「俺もついていきますか?」

「いや、いい」

「では、ここで待っています」

「ああ、頼む」

車を少し離れた場所に停車させて、大橋に向かう。

焦る気持ちを落ち着けて、闇に包まれたそこを進む。

音を立てないように静かに歩きながら、響を護衛してる奴が居る場所を目指す。



橋の手前で、人影を見つけた。

狭間(はざま)

その背中に声をかければ、

「晴成さん」

少し驚いたように振り返った。


「しっ、響は向こうか?」

人差し指を立てて静かにするように伝えると大橋の方へと目を向けた。


「はい。橋の中央で立ち止まってるみたいです」

「そうか、分かった。ご苦労だった、戻ってくれ」

狭間の肩をポンと叩く。


「はい。失礼します」

頭を下げて狭間は、俺が来た方へと戻っていく。


俺は響を迎えに行くべく、再び歩き出す。

こんな暗い場所で、あいつは何をしてんだよ。


呆れた気持ちと心配な気持ちが入り交じった。


ゆっくり、ゆっくりと歩みを進める。

車道に隣接した歩道を進む間も、車が横を通りすぎる事はない。

こんな時間に、橋の向こうに行く奴なんてほとんどねぇ。

それなのに、徒歩で渡ってるとか襲ってくれと言ってるようなもんじゃねぇかよ。


苛立つ気持ちを押さえながら、先へと進む。

1歩、1歩と近づいていくうちに、人の影らしきものが見えてくる。

欄干に両手をかける姿が、月明かりに映し出される頃には俺は静かに走り出していた。


川を覗き込む響の姿が今にもその中へと消えてしまいそうに見えた。

寂しさに今にも消えてなくなりそうな背中を、俺は夢中で抱き締めた。


このまま、響を失って堪るかよ。




「あっぶねぇ、何してんだ!」

声を張り上げて、しがみついた響の体は思っていたよりもずっと・・・ずっと華奢だった。








ーendー