橋の下から吹き上げてくる風がパーカーのフードを浚う。

フードと一緒にふわりと落ちた私の髪が風にふわりと舞い上がった。


このまま私がここで消えたとしても、誰も気付かないかな。

引きずり込もうとする闇に、体を預けてみたくなった。


生まれた意味も生きる意味も分からない私は、ここでその一生を終えてもいいんじゃないのかな。


自殺願望があるわけでは無いけれど、意味のないこの人生にそれほど執着もしてない。


飛び降りたら何かが変わるだろうか。


それぞれの人生だけを守ってきた両親にとって私と言う存在はただの足枷でしかなかった。

物心ついた頃には、彼らは別々の人生を生きていて。

自分達の仕事と恋人だけを守っていた。


あの人達の仲良く話してる姿なんて見たことあったっけ?

顔を合わせればいつだって言い合いをしていて、荒んだ空気の漂う家だった。

あの人達に愛はあったのかな。



そんな環境でも、グレる事なくここまで来たのはお祖父ちゃんの存在があったからだ。

お祖父ちゃんとその周囲の人達の温かさに、救われてきたのは事実。


私の母親に負い目のあったお祖父ちゃんは、私を引き取りたくても引き取れなかったと、今でも悔やんでいる。


義務教育の間までだと我慢して暮らしたあの家を懐かしむ事は無いけれど。

何かを変える力が自分にあったら良かったのに、とは思う。


「はぁ・・・この苦しさはいつになったら無くなるんだろう」

胸の奥にジクジクと膿んだ苦しさに溜め息を吐き出した。

ここから飛び降りたら、これは無くなって消えるんだろうか。


欄干に掴まったまま身を乗り出す。

もちろん、本当に飛び出す勇気なんて無いけどね。
少しだけ冒険してみたくなった。



「あっぶねぇ、何してんだ!」

怒鳴り声と同時に、腰に回ってきた腕がグイッと私の体を後ろへと引っ張った。


「ギャッ」

突然の事に変な声が出た。

引っ張られてバランスを崩した体は、後ろの何かにぶつかって止まる。


「色気ねぇ声」

後ろから聞こえてきた溜め息。


「色気なんて無くてもいいよ」

後ろにいる自分より大きな相手を振り返る。

そこにあったのは、眉を寄せた晴成の険しい顔。


いやいや・・・どうしてここにいるのかな?

居るはずのない相手に驚きが隠せないでいた。