学校につくと、そこは針の筵だった。

チラチラ、ジロジロと無遠慮に女子からの視線が注がれる。


いやいや・・・マジか。

ここまで、酷いとはさすがに思ってなかったよ。


チームウルフ・・・パねぇ。

と冗談はさておき、教室に入っても状況は変わらなかった。

こっちを見てひそひそ話す女子に辟易しながらも、無表情で机に座った。


頬杖をついて窓の外へと視線を向ける。

後頭部に突き刺さる視線が痛い。

禿げたらどうしてくれるんだ。



「・・・はぁ」

この視線は絶対に晴成のせいだ。

及川君の時の視線なんて比じゃない。


明日は休みだから、なんとか今日乗りきろう。



「響!」

名前を呼ばれて振り返ると、教室に入ってきたばかりの千里が、慌てて駆け寄ってくる所だった。


「はよ」

いつもと変わらない挨拶をすれば、

「昨日、大丈夫だったの!」

と力を込めて言われた。


「ああ、問題ないよ。人違いだったみたいですぐに解放されたし」

耳をダンボにして私達の会話を聞いてるクラスメートに聞かせるために、少し大きめ音量で答えた。


「人違いだって」

「なんだ・・・そうよね」

なんて言う会話が漏れ聞こえてくる。

よしよし、そのまま話を拡散してね。


「良かったわ・・・心配してたんだ。あの車怪しい感じだったし」

千里に嘘をついたのがちょっと心苦しい。

でも、この子まで巻き込むわけにはいかないからね。


「ごめんね。帰ってからバタバタしてて連絡できなかった」

「ううん、響が無事ならいいのよ」

ホッとした様に笑った千里。


「篠宮さん、昨日大丈夫だった!」

爽やか少年が、今日は焦った顔で教室のドアから一気に距離を詰めてきた。


「ん、問題ない」

「そっか。間に合わなくてごめんね」

悔しそうに言った及川君に、間に合わないように出発したとは言えない。

晴成と対峙していたら、及川君の方が危険だったからね。


あの時の晴成の瞳は、獲物を見つけて興奮した狼のそれだったから。


「人違いだったみたい」

ここでも、小さな嘘をつく。

今日は1日、これで押し通すと決めたから。


「そうか。迷惑な話だね」

「そうね。まぁ直ぐに解放されたから」

私の為に怒ってくれてる及川君に申し訳ない気持ちになりつつも、さらりと嘘が口をつく。