ー晴成sideー


「彼女、いい子ですね」

「ああ」

「響さんなら、反対はしませんよ」

秋道は助手席から振り向いて笑う。


響を送った帰りの車内。

本当ならまだ一緒に居たかったけど、帰りたいと言う響に無理強いも出来ねぇから送り届けた。


響に会った事で胸の奥のモヤモヤと、鈍い鈍痛も無くなった。

こんな簡単なことだったんだな。


「響を手に入れるのは骨が折れそうだ」

強引にいけば、きっと拒絶される。

今まで自分から言い寄った事がねぇから、どうやって距離を縮めてけば良いのかさえわかんねぇ。


「彼女は、今まで晴成の側に寄ってきた女達とは違いますからね。時間をかけてゆっくりとですよ」

「分かってる」

さっきは、焦って色々言っちまったけど、響がそう簡単に従うような女じゃねぇは分かってる。


「じわじわゆっくりと、逃げられないように包囲網を狭めていくんですよ」

悪い顔をした秋道のアドバイスに、俺は静かに頷いた。


「それにしても、八重歯が可愛い美少女でしたね」

五郎丸がバックミラー越しに俺を見た。

「ああ」

俺と同じアンバーの瞳を持つ響。

惹かれて仕方ねぇ。


「毒舌なのが、ギャップ萌えってやつですね」

「なるほど、そう言われればそうですね」

五郎丸の言葉に感心したように頷いた秋道。


「あいつ、目立ちたくねぇって言うけど、響自体目立つ存在なのにな」

「彼女の人を寄せ付けない雰囲気が、興味本位の人間を寄せ付けないのでしょうね」

「だよな。一線をきっちり引こうとしてくる。絶対にあの一線をぶち破ってやる」

響の懐に入り込める男は俺だけだ。


「焦らず気長にですよ」

「ああ」

「それと。本気で響さんを狙うなら、女遊びは禁物ですよ」

秋道に釘を刺される。


「ああ。気付いちまったからな。響だけが欲しいって。あいつが手に入るなら、他はもう要らねぇよ」

響と体を繋げなくても、側にいて会話を交わすだけで今は満たされる。

そんな女・・・あいつが初めてだな。


「それにしても彼女は律儀な人ですね。今夜の食事代、きっちり自分の分を払って帰るなんて」

要らないと言う秋道に、響は料金を押し付けて帰っていったからな。

「奢られるのが当たり前だと言う女が多いですからね。響さん、かっけぇ」

五郎丸は、多分響のファンになったに違いないと、こいつの満面の笑みを見て思った。