「どうかしましたか? 顔色が悪いようですが?」

白々しく聞いてくる秋道を無表情で見据えた。


「暴走族って言っても、響には何にもしねぇから怖くねぇぞ」

勘違いやろう、晴成が焦って言う。


「別に怖いとかじゃないし。面倒ごとに巻き込まれたと思っただけよ」

タイムマシーンが有ったらあの夜に戻って、あの日の私に伝えたい。

見殺しにしておけと。

親切心が仇となるとは、まさにこれ。


「ククク・・・響さんは正直ですね」

「あ、そうですね」

「巻き込まれたので、まぁ諦めてください」

透かした顔で秋道が言う。


ふざけんな、他人事だと思って。

ムカつくからなにか言い返そうと思った瞬間に個室のドアがノックされた。


「失礼します」

入ってきたのは料理を載せたワゴンを押したウェイター。

次々とテーブルに料理が並べられていく。


「話は食事をしながらゆっくりとしましょうか」

有無を言わせない秋道の口ぶりにムカつきながらも頷いた。


お祖父ちゃんと高級店によく行くから、作法は分かるので助かった。

高級食材を使った料理が並ぶテーブルを見て、今日は財布にいくら入ってたっけ? と思う。

足りなかったら分割してもらおう。


「前菜とオードブルです。他のお料理はどのように」

料理を並び終えたウェイターが秋道に伺いをたてる。


「タイミングを見計らって運んでくださって結構です」

「かしこまりました。失礼いたします」

ウェイターは丁寧に頭を下げて、来た時と同じようにワゴンを押して帰っていく。


「さぁ、召し上がってください。フルコースを頼んでいますので、遠慮なくどうぞ」

私に向かって微笑んだ秋道。


「あ、はい。いただきます」

フルコースとか頼んだのいつだよ! と心の中で突っ込みながらも両手を合わせた。

静かに始まった食事。

正面に座る晴成がかなり喋りたそうにしてるのを、見えない振りをした。


食器の触れ合う音が鳴る。

口に運んだ料理はどれも美味しくて、さすが高級店だなと思った。


「響さんの名字を教えてもらってもいいですか?」

おもむろに秋道が聞いてきた。

「えっ、嫌ですよ」

そんなの決まってるでしょ。


「ハハハ、即答ですか」

「はい。暴走族と関わりたくないんで」

面倒臭い事に巻き込まれるのはごめんだ。

顔を上げずに話す私に、多分秋道は苦笑いを浮かべたのだろう。