「フッ
・・・晴成が気に入るわけですね」

感慨深げに1人で納得してる秋道。


「迷惑なので気に入られたくないですけど」

と返した瞬間、

「ブハッ・・・」

運転席の人が吹き出した。

肩で笑ってるその人の頭を、晴成が叩く。


「笑うな。五郎丸」

「・・・五郎丸って言うんだ」

晴成の言った言葉に思わず反応したしまった。


だって・・・だって、五郎丸だよ。

反応するよね。


「あ、神田五郎(かんだころう)って言います」

バックミラー越しに挨拶してくれた運転手はスーツ姿だ。


「はぁ・・・そうですか」

五郎丸じゃないのか・・・。


「五郎って名前だから、俺が五郎丸って渾名つけてやった」

自慢げに言う晴成を冷たい目で見た。

捻りのない渾名だな。



「響さん、少しばかりのお礼をしたいのでこの後付き合ってくださいね」

否を言わせない口調で秋道が言う。

「その言い方、私に拒否権無いですよね」

「フフフ、そう思うのでしたらそうですね」

「地味に嫌みな感じしますね」

「いえ、とんでもない」

お互いに笑ってない瞳で冷たい笑みの応酬をした。


秋道・・・かなりの腹黒とみた。


「響、お前凄いな」

「なにがよ」

「秋道と、口でやりあえる奴なんてなかなかいねぇ」

感心したように笑った晴成は、自然な感じに私の肩を抱こうとしてきた。


「近寄んな」

パシッと晴成の手を叩き落とす。

何を馴れ馴れしくしようとしてんのよ。


「ククク、やっぱ響は面白れぇ」

「・・・煩い」

晴成の笑い声を聞きながら、窓へと視線を向けた。


車は見知った街並みを抜けていく。

これ以上進むと、帰り道分からなくなりそうなんだけど。


明るいうちに帰らなきゃと心に決める。

だけど、私のそんな思いは叶わない。


それを知るのは、数時間後。



高級車は迷うことなく、何処かへと向かってる。

突然巻き込まれた出来事に、自棄に冷静な自分がいた。


隣に座る男は絶対に危ない奴だ。

今日は前みたいに血濡れてないけれど、こんな厳つい高級車に乗ってるなんて明らかに怪しい。


晴成も秋道も黒い学ランを来てるって事は高校生のはず。

運転手付きの車に乗ってるなんておかしいよね。


晴成の着崩した制服も、中に着てる赤いシャツも、間違いなく不良じゃない。


どうしてこんな奴、助けたんだろう。

車外を見つめて大きな溜め息をつく私は知らなかった。


晴成と秋道が口角を上げてアイコンタクトしていたことを。