「な、いい女だろ?」
満足そうに口角を上げて助手席の男に言う男に、
「どうでもいいから消えて。迷惑だから」
と言う。
「まぁ、そう言うなよ」
男はそう言うと後部座席から降りてくる。
降りてくんな!
男が姿を現した途端に周囲の女子から黄色い悲鳴が上がった。
「「「「「キャー!」」」」」
煩い、迷惑、その二文字を頭に浮かべて、目を前に立つ男を睨み上げた。
「晴成、パニックが起きる前に撤退しますよ」
助手席の男の言葉に、
「ああ、分かってる」
と返した男。
そういえば、晴成って名前だったと思い出す。
「響、乗れよ」
私の腕を躊躇なく掴んだ晴成。
「嫌よ」
振り払おうとしても、男の強い力には及ばなくて。
蹴りを入れるにしても距離が近いし、後ろに千里を庇ってるから無理だ。
千里は背後から私の服を掴む。
助けてくれようとしてるのは分かるけど、現れた男と黒塗りの車に怯えてる。
あぁ・・・本当に面倒臭い。
周囲でチラチラ見てた連中は、今やガン見してる。
どうしようかと考えあぐねていると、私を呼ぶ声がした。
「篠宮さん!」と。
及川君、今来ちゃダメなやつだから。
「あいつ誰?」
晴成は低い声で言うと、焦った顔でこちらに駆け寄ってくる及川君を獲物を狙う猛禽類の様に睨み付けた。
ぞわりと背中に粟立つ感覚に、晴成が本気の殺気を纏ったのが分かった。
あぁ・・・もう。
及川君を、これと対峙させる訳にはいかないよ。
太陽を背負う及川君と闇を背負う晴成じゃ、勝負になんてならないんだから。
このままここで押し問答をしていても、状況は悪化するだけだと自分に言い聞かせて覚悟を決める。
「晴成、車に戻って」
「お前も来るならな」
及川君から視線を逸らして、挑発的に口角を上げて私を見下ろした晴成。
「分かってるわよ」
乗ってやろうじゃないのよ。
「ひ、響、大丈夫?」
心配そうな千里の声に振り返る。
「大丈夫。ちょっとした顔見知りだし。いざとなったら私もそこそこ強いから」
ね? と安心させるように笑った。
「本当に大丈夫?」
「ん、また明日」
「気を付けてね」
千里の瞳が不安に揺れてる。
申し訳ない気持ちのまま、晴成に腕を引かれて後部座席へと乗り込んだ。
ドアを閉めて、千里に向かってヒラヒラと手を振る。
こんなことで彼女の不安は取り除けないだろうけど。
たぶん、晴成は私になにもしないって自信もあるんだよね。
危ない奴には違いないんだけど。


