「また明日ね、篠宮さん」

歩みを止めた及川君が笑顔で手を振ってる。


本当、マジで勘弁してよ。


「凄いね、及川君」

振り返って彼を見た千里が苦笑いする。


「バカなんじゃないかな」

「まぁまぁ、そう言わずに。及川君って相当響が好きなんだよ」

「迷惑以外のなにものでもない」

「及川君、いい子だと思うけどね」

「だから、余計に無理」

いい子ちゃんは、普通の恋愛をしてれば良いのよ。

私になんて構わなくても、彼を好きだと献身的な尽くしてくれる子は大勢いるだろうし。



「響はぶれないね」

フフフと笑った千里。

その時、辺りにキーキーッとブレーキ音が鳴り響いた。

咄嗟に千里の腕を引いて、路肩に身を寄せる。


私達の隣すれすれに急停車したのは、黒塗りの如何にもな感じの車。

真っ黒いボディが不気味に見えた。


驚いて目を丸くしてる千里を背中に庇って、黒い車を睨み付ける。


車の窓が静かに降り、そこから見覚えのあるアンバーが私を見据えた。


「よう、響」

少しハスキーなその声がした。


「危ないじゃない。一歩間違えれば大怪我したんだけど」

冷たく言い放ち窓から顔を出す男を睨み付けた。

「悪い悪い。俺が急に停まれって言ったからタイヤが滑ったらしい」

目を見張るほど美しい顔でその男は微笑む。


「そう言いながらも、悪びれる様子が全くないよね」

「そんな怒んなって。まぁ、響のその顔もぞくぞくするけどな」

ここにも、おかしなやつがいた。

あの夜に、こいつを助けたことを、今更ながらに後悔する。



「ひ、響、知り合い?」

怯えたような千里の声が耳に届く。

「違う。ただの顔見知り」

名前も忘れた男を知り合いだなんて言わない。


「響は、相変わらずつれねぇ」

「煩い。さっさと消えて」

周囲がざわめいてきてるから。


立戸まってこっちを見てる生徒までいる始末。

悪目立ちもいいところだ。


足音が聞こえて、慌てたように駆け寄ってくる及川君の姿があった。

彼まで来たら、相当面倒じゃない。


これって前門の虎、後門の狼じゃない?


「ククク、晴成相手にここまで言う女の子も珍しいですね」

助手席の窓まで相手、見覚えのないイケメンが顔を出して笑う。


誰だよ! お前

キッと睨み付けた私を黒髪のそいつは、物珍しそうに見る。