冗談じゃない。

いつの間に来たのよ。


確認した時には姿はなかったのに。

追い付いてきてたなんて反則だ。


私達の後ろを涼しげに歩く及川君にうんざりしたように溜め息を吐いた。


「及川君、近付いてくる気配感じなかったわね」

「委員長達が話してる隙に近づいたからね」

余裕の表情の及川君は息の上がってる気配はない。

さすがサッカー部と言ったところだろうか。


「悪いけど、千里と2人で帰るから遠慮して」

冷たく言い放っても、

「話の邪魔しないから一緒に帰ろうよ」

なんて言ってくる。


「暇人なの?」

「うん」

「本当、迷惑だから。及川君のファンの子にこれ以上睨まれるのはごめんよ」

教室でも廊下でも、嫉妬の炎を瞳に宿した女の子達が睨んでくるのよ。


「あ・・・それはごめん。彼女達には言っておくよ。僕は自分で友達を選びたいからって」

眉を落としたあと、そう言った及川君。

そんな事を言ったって、君を好きな女の子には意味ないと思うけど。


「いつから友達になったのよ」

勘違いも甚だしい。

「僕は声をかけた時から友達だと思ってるよ」

爽やか君の頭の構造が、どうもおかしい。


「付き合って欲しいって言ったくせに、友達とかおかしいよね」

「あ、うん。お互いを知るまでは友達の方がいいかなと思って。篠宮さん、誰とも付き合わないって言ったし」

ね? とウインクされた。

逆手に取られた感じが否めない。


「友達にもならない」

はっきりと告げる。

私達、全くタイプの違う人種だよ。

誰が見てもね。


「まぁ、そう言わずに仲良くなろうよ。せっかく同じクラスになったんだし」

どうしてこんなにも、及川君はめげないんだろう。

だんだんと不機嫌になっていく私を見かねて、千里が口を開く。


「及川君、あんまりそんな風に押し付けてばっかりじゃ響に嫌われるだけよ」

「・・・それは困るなぁ」

困った顔で千里を見た及川君。


「響は距離感のない付き合いが苦手だから」

千里の言う通り。

見かけによらずぐいぐい来る及川君に、苦手意識が増していく。


「わ、分かった。徐々に近付くね」

こいつ・・・分かってねぇ。

呆れ顔で及川君を一瞥して、私は足を早めて先へと進んだ。


もう、彼は放置だ。

何を言っても通じないんだから、仕方ない。