チャイムが鳴ったのと同時に立ち上がり教壇の先生にテストを提出して、教室を飛び出した。

私の勢いに驚くクラスメート達。



視界の端に、驚いた顔の及川君が映ったような気がしなくもないけど、構っちゃいられない。


「響、待ってよ」

千里もしっかり追いかけてきてるらしい。

それに安心してスピードを上げる。


帰宅する生徒が密集する下駄箱で靴を履き替えて、校門を目指した。

後ろから千里の足音が聞こえなくなって、今日は千里を置き去りにしても、仕方ないと諦める。


ごめんね、千里。

今日はとにかく逃げとかなきゃなんだよ。


校門を抜けて、少し走ってお好み焼き屋の看板の影に隠れた。

なにしてんだ? と見てくる生徒達は気にしないことにする。


こっちにだって事情があるんだよ。

わたしだって、逃げたくて逃げてる訳じゃないんだから。


学校の方を見て、不格好に走ってくる千里の姿を見つける。

千里って、運動神経無さそうだもんなぁ。


息を上げて必死に走ってる友人に笑みが溢れた。


正面だけ見据えて走ってる彼女は、私の隠れている場所まで通りすぎようとする。


「千里、こっちこっち」

慌てて声をかければ、

「うわっ、ここの居たの?」

驚いて目を丸めた。


「ついてきてないわね」

千里を看板の影に引きづりこんで確認する。

及川君の姿はない。


よし、これなら安心して帰れる。

ほっと胸を撫で下ろして、看板の後ろから出る。


「・・・はぁ、響、足早いわね。これなら体育祭も楽勝じゃない」

息のまだ整わない千里が私の隣をゆっくり歩き出す。

「体育祭なんて、本気で走らないわよ」

そんな疲れる事、するわけ無いじゃない。


「えぇ! 運動神経良いのに、勿体ない」

残念そうな顔をする千里に肩を竦める。


「面倒臭い」

それに尽きる。


「クラス対抗リレーとか出て欲しいのに」

唇を尖らせて抗議しても無理。

「いや」

出るわけないじゃん。

「そんなぁ~頑張ろうよ」

並んで歩きながら、千里のブーイングを受け流す。


私が汗水流して必死に体育祭を参加する姿なんて想像できない。

中学の時も、そこそこ手抜きで乗り越えたし。



「本当、一緒に頑張ろうよ」

聞こえたその声に振り返る。

「ゲッ・・・」

「そんな嫌そうな顔しなくても良いのに」

爽やかに笑う及川君がいて、私はあからさまに肩を落とした。