「若気の至りでしょ」
フフフと笑ったら、
「年より臭いわよ」
と笑われた。
ウルフの話題で盛り上がる生徒の横を通り抜け、下駄箱に向かう。
「井上」
千里を呼び止める声に二人で振り返る。
そこにいたのは担任の40代の体育教師だ。
「帰るところ悪いが、次回の代表委員会の書類整理を手伝ってもらいたい。頼めるか?」
申し訳なさそうな顔はしてるものの、千里に断らせるつもりは無さそうだ。
「あ、はい。響、ごめん、先に帰ってて」
「りょ~かい」
千里は人が良いから断らないんだよ。
損な性格だといつも思う。
「悪いな、篠宮」
「別に」
先生を一瞥して歩き出す。
「響、また明日」
背中にかけられた千里の声に振り返らずに片手を上げた。
クラス委員は色々と大変だな。
私には絶対向いてないと思いながら、バイト先のレンタルショップへと向かった。
バイト先の店は、大手と違い下町のレンタルショップなので、こじんまりとしていて気に入ってる。
無理に愛想を振り撒かなくても良いし、静かで居心地が良い。
レンタルショップの隣にある大きな本屋の社長が、趣味と実益を兼ねて運営してるので、何かと緩い。
私にはちょうど良いバイト先。
中々良いところを見つけたと思ってる。
「お疲れさまです」
店に入ってすぐにあるカウンターへと挨拶をすれば、
「おつかれ、響ちゃん」
社長自らが店のエプロンを着けて店員と化していた。
「社長、またカウンターに入ってるんですか?」
「うん、暇だしね」
呆れ顔で聞いた私ににっこりと笑った社長。
暇潰しの道楽にレンタルショップを経営して、尚且つ店員となる不思議な社長だ。
「着替えてきます」
カウンターを通り越して、奥のスタッフルームへと進んだ。
「はいは~い。いってらっしゃい」
ひらひらと手を振ってるであろう社長は、おおらかで人が良い。
彼のお陰で、このバイトにもすぐに慣れたのは間違いない。


