ガヤガヤと騒がしい教室。
入学式から、一週間が経ったと言うのに、クラスメイトはまだ浮き足立っている。
昼休みともなると、毎度この調子。
いくつかのグループになって昼食を取る生徒たちを横目に私は菓子パンにかじりついた。
マンションの側で見つけた小さなパン屋のクリームパンが今のお気に入り。
通学途中で立ち寄って買ってくるほどに。
「またクリームパン1個なの?」
飽きれ顔で私を見下ろすのは井上千里。
黒髪お下げの眼鏡委員長。
キチンと着こなした制服から真面目さが滲み出てる。
入学式にこけてた彼女に声をかけたのが縁で、彼女がこの学校での友達第一号になった。
「そ、これが今のお気に入りだから」
クリームパンにかじりついたまま机の前に立つ彼女を見上げた。
「栄養考えて食べないとダメだよ」
言うことも真面目っぽいな。
真面目に見える千里と不真面目に見える私。
一風風変わりな組み合わせに思えるが、意外にも気が合う。
彼女は無理に私の中に踏み込んで来ようとしないので、楽な付き合いが出来るし。
「サプリメント飲んでるから大丈夫」
栄養はそれで補充できる。
家ではたまに料理もしてるしね。
「もう、またそんなこと言ってる」
「フフフ、毎日、同じ会話してる気がする」
お昼はいつもこんな感じだ。
「私のお弁当少し摘まむ?」
千里はそう言いながら、住人が留守の隣の席へと座ってお弁当を広げ出す。
「ううん、良いや。ありがと」
クリームパン1個でお腹は膨れるし。
「そう? いただきます」
千里は不満げな顔をしつつも、手を合わせる。
本当、何から何まで真面目だなぁ。
感心してフッと笑みを漏らす。
「千里のお弁当は相変わらず豪華ね」
色とりどりのお弁当は、栄養もよく考えられてる。
「お母さんが料理好きだからね」
人好きのする優しそうなおばさんを思い出す。
何度か夕飯に呼んで貰った。
そう言えば、いつもテーブルに沢山の美味しそうな料理が並んでるし、美味しい。
「お母さんがまたいらっしゃいって言ってたわよ」
「あ、うん。近いうちにお邪魔する」
千里の家は私の知らない暖かさがあって、それが少ししんどくなる。
私の経験した事のないものだから。


