「で、話って?」

裏庭のベンチ、隣に座った千里がこちらを見る。

ちなみに、一緒にお昼を食べたいと言った及川君は、振り切ってきた。

彼にまで話す必要性がないから。


「ああ、私、ウルフに入ったんだ」

千里を見ないままそう言ってパンをかじった。

「へっ?」

変な顔になってるよ、千里。

ほら、口から卵焼き落ちそうだよ。


「色々あって入ることになったんだ。後で人伝に知る前に伝えておこうと思って」

「・・・色々って、短縮しすぎ」

複雑そうな顔で千里は、卵焼きを咀嚼する。


「不可抗力? って言うのかな」

「前に黒い車から降りてきた人が総長? 彼に見初められたの?」

今時、見初められたって。


「ま、あれが総長。少し前からちょっと知り合いだったんだけど。晴成がウルフの総長だって知ったのは随分後だけどね」

総長だなんて知ってたら、余計なお節介はしなかったかもねぇ。

怪我人とはいえ、家に連れてくなんて事しないな。


「・・・何かあるとは思ってたけど、暴走族に入るとは・・ね」

「私だって入るなんて思ってなかったよ」

「事情がありそうだから、深くは聞かないけど。気を付けてよね」

千里の心配そうな顔を見て、

「大丈夫。自分の身は自分で守れるから」

と言っておく。


「もしかして、今日の噂になってる話って響が関係してる?」

「あ~フードの正体ね。私」

「・・・刃物を持った男と拳銃を持った男を、1人で倒したって・・・何を危ないことしてるのよ」

あ、怒られた。


「フフフ、大丈夫だって。余裕だったし」

「・・・はぁ、響が喧嘩できるのは知らなかったけど。無茶だけはしないでね」

「喧嘩なんてしてないし」

2人の男を無効化しただけじゃん。

大きな溜め息をついた千里に心外だと告げる。


「・・・噂がどこまで本当だか分からないけど。2人の男を相手したのは間違いないのよね?」

「ん。晴成を狙ってきたらしくてね。隙を見せたから制圧した」

「響、こう言っちゃなんだけど。普通の女の子は制圧したなんて言葉は使わないよ」

やれやれと肩を竦めた千里は苦笑いだ。


「へえ、そうなの」

普通基準が分かんないけど。

「まぁ、そもそも普通の女の子は、自分から危険に突っ込んでいかないよ」

だって仕方ないじゃん、体が動いちゃったんだもんね。