「・・・問題ねぇ。ほとんど返り血だ」

返り血・・・ねぇ。

そう言われて、マジマジ見た男の子の顔は血濡れてはいるけれど、怪我らしい怪我は無さそうだ。


「そう。なら良いけど」

ホッとしてそう言った時、数人の声と足音が近付いてきた。



「あいつ、どこいきやがった!」

「そう遠くには行ってねぇはずだ、探せ」

「あれだけ、フラフラしてたらその辺でへたばってるだろ」

「手分けして必ず見つけ出せ」

乱暴な口調の連中ようだ。


「追われてるの?」

「・・・ああ」

巻き込まれるのは嫌だなぁ。

だけど、乗り掛かった船よね。


「立てる? こっち」

彼が頷く前に掴まれた腕を逆に掴み返して、引きずるようにしてベンチの後ろへと引き入れた。


「うっ・・・う」

どこか痛いのか小さな唸り声を上げた彼に、

「し、静かに」

と人指し指を立てて見せた。


街灯の無いこの場所なら、音を立てなければベンチの後ろに気付かないでしょ、たぶん。


ザクザクと地面を踏み荒らす音が近づいてくる。

ベンチ越しに様子を伺うと、人相の悪い数人の男達が公園の入り口付近に現れた。





「ここには居ねぇな」

「そうみたいですね」

「あの野郎、何処へ隠れやがった」

周囲を見渡す男達の顔は憎々しげに歪んでる。

ドキドキと鼓動が早くなる。

お願い、こっちには来ないで。


最悪の場合、戦うしかないけど。

10人近くにいる男達相手に、怪我人を庇って勝てる自信は全く無い。


「向こうの住宅街の方に行くぞ」

「仲間を呼ばれる前に見つけ出せ」

男達はそう言うと、公園の入り口から離れていく。

なんとか、やり過ごせそうだ。

遠ざかっていく足音に耳を澄ませながらも、ホッ吐息を吐く。



「どうやら、行ったみたいね・・・うわっ」

隣の彼を見たら、あまりにも近い位置に顔があって思わず後ろに身を引いた。


「助かった」

ぶっきらぼうにそう言われ、

「別に大したことしてない」

そう返す。


「じゃ、私行くから」

足跡も聞こえなくなったし、もう大丈夫でしょう。

「・・・ああ」

ちょっと、そんな寂しそうな顔されても困るよ。

まぁ、私はそこまでお人好しじゃないから、これ以上は構ってられないけどね。

ゆっくりと立ち上がると血濡れの彼もそれにつられるように立ち上がった。