だって、見せしめに奪われた時点で、そのまま監禁されてるだけとは思えないしなぁ。

第一さ、晴成を殺しても、柳組ってヤクザが約束守るなんて保証もないのにね。

ケツモチを止めたって事は、そう言うことでしょ。


て言うか、拳銃とナイフを向けられた緊迫した状態で、ここまで冷静な私も、相当おかしいのかもね。

生に執着して無さすぎでしょ、口元に自嘲的な笑みが浮かんだ。


「おい! 赤谷の隣のお前、何笑ってんだ」

あ、失敬、見つかっちゃったよ。

ナイフ男が一歩前に出た。


ど~すっかなぁ~。


「おい、峯岸、てめぇが用あんのは俺だろうが」

晴成が私を庇うように一歩前に出る。


立ち止まり睨み合う2人。


短期決戦しないと、長引くと面倒だなぁ、これ。

どのタイミングかな。

なんて考えていた私の耳に届いたのは、「晴成、響さん」と言う私達を呼ぶ声。

後ろから聞こえたそれに、敵も晴成も一瞬だけ気を逸らした。


今かも。

多分、この時の私はこの場の誰よりも素早い動きをしたと思う。


晴成の隣から飛び出して、拳銃男との間合いを一気に詰めた。

私の行動に驚いたように目を見開いた男に、フッと笑って上段狙いの綺麗な回し蹴りをお見舞いした。


「ゴフッ」

とか拳銃男が言った様な気もするが勢いを付けたまま吹き飛ばした。

拳銃男は、唖然としたナイフ男に向かって吹き飛んでいく。


「うわぁ」

とナイフ男の声もした。

だけど2人は、ナイフと拳銃をその手から失いながら地面へと激突した。


唖然とする周囲をよそに、私は2人に近づいていく。

正直、一撃で仕留められたと思ってないしね。

地面に顔をぶつけたらしい2人。


「あのさ、丸腰の相手に武器とかそう言うの嫌いなんだよね」

低い声でそう告げて、おののくような表情で私を見上げてたナイフ男の鳩尾に渾身の一撃をお見舞いした。


「グッ、ああ」

上手く急所に入った正拳突きに、ナイフ男が涙目でのたうち回る。


「それにあなた、自分がヤクザとつるんだツケでしょ? それを人に向けんじゃないよ」

完全に怯えた目で私を見てた拳銃男にはもう一発蹴りをお見舞いしておいた。

人間て、面白いほど吹き飛ぶ。


口角を上げてそれをやってのけた私に、ギャラリーが怯えていたことも、【白いフードの悪魔】の噂がその日の夜から出回ることになったことも、私は知るよしもなかった。