クスクス笑いながら千里がやってくるのが見える。

他人事だと思って笑ってんじゃないわよ。


「朝から忙しいそうで」

「・・・おかげさまで」

辟易したように返す。


「校門でも謝られてたの、見てたよ」

「面白がるの止めてよね」

「ごめんごめん」

「心が籠ってない謝罪はいらない」

千里に向かって眉を寄せた。


「フフフ、そう怒らないでよ。色々お疲れさま」

「本当、朝から疲れた」

やれやれと首を振る。


「響って目立ちたくないはずなのに、どうしたって目立つよね」

「今回のは巻き込み事故にあった気分だわ」

「ふふ、上手いこと言うね。座布団1枚」

「そんなのいらないし」

煩わしさに溜め息をつくと、頬杖を突いて窓の方へと視線を向けた。


「そんな拗ねないで。お昼に学食のプリン奢るから」

「絶対?」

千里に顔を戻す。

「絶対」

「約束ね」

「うん。じゃあ、また後でね」

千里は現金な私の様子を笑いながらも席へと戻っていく。

そのタイミングで授業開始のチャイムが鳴り響いた。













家から持ってきたパンを片手に、千里に買って貰ったプリンを見る。

ちなみに、今の私のマイブームはベーコンエピ。

フランスパンにベーコンを挟み込んで焼いたパンだ。


「響って、食べ物に貪欲なのに、自分で用意するのはかなりの軽食だよね。今日もそのパン一つでしょ?」

不思議そうな顔で言われた。


「当たり前じゃない。自分で用意するにはお金いるし」

当然でしょって顔をしたら、

「そう言う問題なの?」

と笑われた。

「ん」

そう言う問題だし。

別に経済的に苦しい訳じゃないけど、何故だか自分で選ぶと簡単なものばっかりになる。

まぁ、世の人はこれを、ケチと呼ぶのだろう。

貧乏臭い! って思った人がいても、それを口にするのは止めて欲しい。


「そう言えば、体育祭、何に出るか決めた?」

そう言われて思い出す。

うちの学校は6月に体育祭があることを。

「まだ」

ペーコンエピをモシャモシャ食べながら返す。


「出ないって選択肢はないからね」

「分かってるよ、委員長」

彼女が委員長である間は、サボることなんて出来やしない。

大人しそうに見えて千里は、怒ると怖いからね。