「あ、あの、篠宮さん、昨日はごめんなさい」

いつものように、気だるい体を引きずって登校したら校門で昨日の片割れが、なぜか私を待っていた。

そして、頭を下げて謝ってきた。

あ、大人しい子の方ね。

体を震わせながら頭を下げてる。


登校途中の生徒達は、何事かと興味津々で見てくる。

ちょっと、こんな所で止めてよね。


「もういいから」

表情を変えないままそれだけ言って、立ち止まらないで彼女の前を通りすぎた。

マジで勘弁して。


あれじゃ、第三者から見たら完全に私が悪者だよ。

別に良いけど・・・いいけど、迷惑。


頭を下げたままの彼女がその後どうしたかなんて知らない。









「篠宮、ごめん」

教室に入った途端に、ここでも頭を下げられた。

ほら、また興味本意な連中が見てるじゃん。


「それ、何の真似? 及川君、顔上げてくれない?」

頭を下げたままの及川君を見据える。


「昨日、うちのマネージャーとその友達が篠宮に言い掛かりを付けたって聞いた。本当、ごめん、俺のせいで」

悲痛な顔で私を見る及川君。

「別に」

「あいつらにも、俺が篠宮を追いかけてるんだって言っておいたから。もう余計なことはしてこないと思うけど」

「そう・・・」

もう、どうでもいいし。

及川君を通り過ぎて机に向かう。


「あっ・・・待って篠宮」

追いかけてくる及川君は、ご主人に怒られた犬が耳を垂れ下げてご機嫌うかがいするみたいに見えた。

周囲は彼のそんな姿を憐れんでる。


ちょっとちょっと・・・私、悪者っぽいんだけど。

まったくもって私が被害者だからね。


机に鞄を引っかけて、不機嫌丸出しに椅子にドカッと座った。

昨日から、なんなのよ、いったい。


「篠宮、本当、許して」

私の机の前まで来た及川君は、顔の前で両手を合わせる。

「別に怒ってないから」

こんなことされる方がムカつく。


「本当に?」

捨てられた子犬みたいな目で見てこないで。

「本当に。だから、自分の机に戻って」

シッシと手で追い払った。

これ以上、見世物になりたくないのよ。


「分かった。じゃあ、また後で」

笑顔になった及川君は友達が待ってる自分の机の方へと走っていった。


彼はこれからパトラッシュと呼ぼう。

色んな意味で犬だもん