距離を取りたがる響と、距離を縮めてぇ俺。

先が長いのも、道が険しいのも、嫌でも分かる。


響の髪に触れて、抱き締めて。

あいつの存在をもっと身近に感じてぇな。


悶々とした思いが募ってくる。


抱き寄せて、キスをして、無理矢理組み敷いて、その肌に触れる事が出来たら、この沸き上がる思いを消化できるのか。

だけど、無遠慮にそんな事をすれば、響はきっと今以上に高い壁を張り巡らせる。

そして、俺の懐になんて2度と飛び込んでこねぇな。

今でも懐に入ってねぇのに。

矛盾ばっかりじゃねぇか・・・・・。


馬鹿馬鹿しい事を考えた自分に、自嘲的な笑みを浮かべた。


それに響のあの冷めた瞳。

何も信じねぇと、愛情なんて要らねぇと、言ってるあの瞳が気になる。


あ~マジでらしくねぇ。

髪をくしゃくしゃとかきむしって、肺に吸い込んだ紫煙を苛立たしげに吐き出した。


天井に向かって、ゆるりと立ち上るそれは、ゆらゆらと左右に揺れている。

掴めそうで掴めないそれが、響の様に思えた。



「響ちゃんて、バイトしてるんだね」

「ああ」

電話の会話を聞いてたらしい光希が聞いてくる。

俺も初耳だっうの。


「何のバイトだろうな? 響ちゃん、スーパーのレジとか似合わなそうだもんな。アイスクリーム屋とかもねぇなぁ。接客してる姿が想像できねぇもん」

瑠偉、爆笑してるが、響に知られたら凍り付くような零度の視線で睨まれるぞ。


「彼女は何をしてるのか聞いたか?」

「教えてくれる訳ねぇだろ」

豪の質問に素っ気なく返す。

俺だって知りてぇ。


「響さんのバイト・・・本当に思い付きませんね」

顎に手を当てて考え込む秋道。

確かに思い付かねぇんだよな。


「意表を突いてハンバーガー屋の店員とか」

テーブルに両手を突いて勢いよくそう言った光希に、その場にいた全員が無言で首を横に振った。

それ、何よりも想像できねぇわ。


「スマイルくださいとか言われたら、不機嫌に睨み付けて終わりじゃね?」

瑠偉の言う通りだと誰もが思った。

笑顔で対応してる姿を、どうやって想像すんだよ。


「ないな、うん、ない」

光希も我に返った様にうんうんと自分で納得していた。


響のバイト先、謎だらけでそれは誰にも分からない。



ーendー