遠くの方にかすかな光を感じた。

目を開ければ家によく似た木目の天井。
でも、私の知っている天井とは違う。



私は稽古着から普通の男物の着流しに着替えていた。

起き上がり、自分の太ももに触れるとあるべきものがそこにはなかった。



「“神楽”...」



神楽、とは私の持つ刀であり、私の忍としての名前。

その刀は、通常の状態であればただの棒状の木に過ぎない。
けれどその刀の持ち主によって刀と姿を変える。



明治維新前までは一族の一部が暮らし鍛錬に励んでいた里で、維新以降は朝日奈邸で保管されている妖刀の一本。
忍として訓練を始めるときに多くの中からひとつ選び、その刀に焼かれた名前がその忍の名となる。

現代を生きる私は生まれた時につけられた法的な名前と忍としての名前、ふたつを持っている。
私の先祖には名前はその人そのものをあらわすとしていたこともあり、“神楽”は私で私は“神楽”なんだ。



私の半身である“神楽”を探しに私は布団から這い出た。

物心ついた時から、文字通り、肌身離さず持ち歩いていた私の半身。
手元にないだけでこんなにも不安になるのかと心の中で驚きつつ立ち上がる。



「“神楽”...」



その名前を呼ぶと、かすかに空気が動いたのを感じた。

その小さな空気の揺れを頼りに“神楽”を探す。