「校舎に戻らないと……」

藍が慌てて校舎の中に戻ろうとした時、校門の前に誰かが立っているのが視界に映る。黒いランドセルを背負った男子だ。傘もささずに立ち尽くしている。

藍は校門まで走る。男子は逃げることなく藍をじっと見つめていた。

「こんなところでどうしたの？台風が近づいているし、早く家に帰った方がいいわ」

「お姉さんは、警察の人なの？」

男子は藍を見つめる。藍は「えっ？」と聞き返した。この男子に見覚えはない。

「前にこの学校の前を通った時、警察の人とお話ししていたのを見たから」

「えっと……あなたは……？」

「僕は、桑原悠河（くわはらゆうが）。お兄ちゃんがここで死んだんだ！」

うつむいた男子が顔を上げる。その目には涙があった。

「陸人さんの……」

「何で！？何で、お兄ちゃんは死んだんだよ！？僕、お兄ちゃんがこれ以上痛い思いをしませんようにってお守りを作ったのに！」

泣き出した男の子に藍は優しく触れる。そして、お守りという言葉に首を傾げる。